高田馬場「人気ライバー刺殺事件」が残した重い教訓 「アルバイト感覚の動画配信」「投げ銭」が深刻なトラブルを招く理由

3月11日午前、人気ライバーの「最上あい」こと佐藤愛里さん(22)が東京・高田馬場の路上でライブ配信中に刺殺された。警視庁は栃木県在住の高野健一容疑者(42)を現行犯逮捕。高野容疑者は「借金までして250万円もの貸し付けをしたのに、いっこうに返してくれなかったから犯行を決意した」と供述しているという。

ライバーとは配信によって収入を得る動画配信者のことだ。佐藤さんはライブ配信アプリ「ふわっち」で2600人以上のフォロワーを抱える人気ライバーだった。高野容疑者はそんな彼女のリスナーの一人だった。社会部記者は言う。

「高野容疑者が動画で佐藤さんを知ったのは2021年12月。その後、お互いの携帯番号を交換し、連絡を取り合うようになったそうです。翌年8月、彼女が働いているお店に高野容疑者が行ってことで二人の距離が近くなったようです」

距離の近さはお金の無心へと繋がった。すぐに佐藤さんは高野容疑者から借金をするようになる。

「『財布を忘れた』とか『生活費が足りない』『アパートを借りる費用がない』などと高野容疑者に借金を申し入れたそうです。高野容疑者は消費者金融で借金までして佐藤さんの銀行口座にお金を振り込んでいた。その総額は250万円を超えました。そこで2023年8月、高野容疑者は佐藤さんを相手に民事裁判を起こします。この年の12月、宇都宮地裁は佐藤さんに251万4800円の返却を命じましたが、彼女はこれに従わなかったようです」(社会部記者)

そのため高野容疑者は「犯行を決意した」というわけだ。なぜ容疑者はそこまで佐藤さんに入れ込んだのだろう。ITジャーナリストの井上トシユキ氏に聞いた。

昔からあった手口

「人気ライバーのコアなファンは指名客のようなものです。しかも、ライバーと趣味性が合ったりすると、リスナーも離れにくくなります。例えば、お城巡りが好きなライバーがいるとします。リスナーから『次に行くのはどの城?』なんて問われるわけです。その答えが有名な姫路城だったりしたら、シロウト扱いされたりもする。よりマニアックなお城で、それがリスナーも好みだったりすると、推し活にも力が入るわけです。今回の場合、高野容疑者は佐藤さんに実際に会っているわけですから、彼女にとって自分は特別な存在だと思ったはずです。だから彼女の話を100パーセント受け入れて、お金を振り込み続けた。もっとも、それが裏切られたと気づいたときには、可愛さ余って憎さ百倍ともなり得ます」(井上氏)

言うまでもないが、それが殺人を正当化する理由にはならない。

「状況は異なりますが、昨年5月、西新宿のタワーマンションの敷地内で25歳の女性がナイフで刺されて死亡した事件と似た印象を持ちます。被害者は過去にガールズバーを経営しており、容疑者はその店の経営を応援するために自分の車やバイクを売り払って2000万円以上のお金を渡したそうです」(井上氏)

ところが、女性がライブ配信で自分を批判していると思い、犯行に及んだ。こちらも犯行の要因は容疑者の“裏切られたという思い”だった。

「一方、被害者の女性も相手のことをあまり思いやらない節が窺えます。男性ファンからお金を巻き上げるような行為は、2000年頃のネットアイドルの時代からずっとあったものです」(井上氏)

ではなぜ、今回は事件化したのだろう。

室内であっても場所は特定される

「やはり屋外でのライブ配信を一人で行っていたというのが大きいと思います。自撮り棒を使って配信に集中するので、周りに注意が行かなくなってしまいます。しかも、今回、佐藤さんは事前に“3・11山手線徒歩一周”の企画を告知していました。それを知った高野容疑者は上京し、動画を見つつ場所を特定したのです」(井上氏)

防ぐ方法はあるのだろうか。

「これといった防衛策はありません。強いて言えば、屋外で配信する場合は家族や友人などに同行してもらって複数人で行うこと。室内で行った場合でも、窓の外の景色から場所が特定される可能性があります。20年近く前の2ちゃんねる時代、島根県のひなびた場所からの配信でも30分程度で特定した人がいました。今やツールも揃っていますし、ネット上には不動産サイトの間取りや写真も残っています。変わった間取りであったりすれば、さらに早く特定される可能性が高くなります」(井上氏)

今回は犯行の様子までもが配信されてしまった。それを見た視聴者も少なからずいる。

「豊田商事会長刺殺事件を思い起こした人もいるかもしれません」(井上氏)

40年前の事件を彷彿

ちょうど40年前となる1985年6月18日、悪徳商法で総額2000億円もの巨大詐欺事件を起こした豊田商事の永野一男会長が自宅マンションで刺殺された事件だ。詐欺の被害者は数万人にものぼった。事件当日、永野氏の逮捕が近いと自宅前にはマスコミが集まり、テレビで中継されていた。そこへ現れた二人組が窓ガラスを割って自宅に侵入。血まみれとなった永野氏の姿がテレビに映し出された。

「金額と規模は異なりますが、金銭トラブルによる犯行であることに変わりはありません。アルバイト気分で配信する人も、お金は恐ろしいものになり得ることを心にとどめていただきたいです」(井上氏)

流行りの“投げ銭”もトラブルの温床となり得るという。

「今回の件とは直接関係ありませんが、ライバーの推し活として広まる“投げ銭”のシステムも問題視されるようになるかもしれません。配信者に対して電子決済で金銭的支援を行うものですが、今やファンの愛情を計る基準が“投げ銭“の額であり、それを競わせるライバーもいる。ファンの気持ちは金額で表すことはできません。しかし、多額の“投げ銭”をしたにもかかわらず『感謝してくれない』『自分の名前を呼んでくれない』と逆恨みし、トラブルに発展する可能性もあるのです」(井上氏)

金の切れ目が縁の切れ目とは、お金を受け取った側には実に都合のいい言葉だが、出した側にとってはそうではない。ましてや推し活のような気持ちを込めた人には、可愛さ余って憎さ百倍ともなり得る。たとえそれが“投げ銭”であっても……。

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